チョット気になる記事を抜粋しました。
<縦並び社会・格差の現場から>患者になれない
骨を皮で覆った体がベッドに横たわる。記者(32)が腹部に触れさせてもらうと、そこだけスポーツ選手の力こぶのように硬い。
福岡市の男性(63)は昨年11月、全財産の2万5000円を握りしめ、激痛をこらえて病院に向かった。意識は玄関をくぐったところで失う。
10代で大病を患い、重労働は難しい。この10年はチラシ配りのアルバイトをしながら独り暮らし。2年ほど前から年間約20万円の国民健康保険料を支払えなくなった。市から届いた1枚の「資格証明書」で、国民健康保険証を取り上げられたことを知らされる。「死のうが生きようがご自由にという宣告に思えた。それも自分のせいですけれど」
3割の自己負担で済んだ医療費は全額負担に変わった。夏には何日も便が出ず、何を食べても吐いたが「治療代や生活費が心配で病院に行くのが怖かった」と言う。やっとたどり着いた病院の診断は大腸がんだった。
男性が入院する4日前には同様に無保険の女性(53)が運び込まれた。乳がんと分かった。黒ずんだ腫瘍(しゅよう)が大きくなって乳房が三つに見えるまで我慢していたという。病院のソーシャルワーカーは「こういう患者は増えていくばかりだ」と心配する。
福岡市の国保財政は04年度で49億円余の累積赤字。失業者ら国保料を支払えない低所得層が加入して国保の収支が悪化する一方、高齢化で医療費は増えていく。財政の厳しさは全国の自治体と変わらない。
保険証の取り上げは6年前に義務化され、対象世帯数は7月現在で1万7667に上る。保険年金課は「保険料を払わない人への罰則というか……。そうしないと今払っている人に払ってもらえなくなる」と説明し、「負担の公平」を強調する。
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病気になって患者に「なれる」「なれない」の格差が広がっている。
富士山を望む山梨県山中湖村。7月に肺がんの手術をした夫(67)とその妻(64)が別荘で週末を過ごす。
会員制リゾート会社の子会社が94年につくった医療施設「ハイメディック山中湖」の会員。最新のPET(陽電子放射断層撮影装置)によるがん検診が売り物だ。会員権は最高で約700万円。夫妻は約500万円のコースを2口持つ。検診でPETが夫の肺にとらえた影はまだ初期の腫瘍だった。
会員数は増え続け、4000人を超えた。来秋、国内三つ目の施設が東京大病院内にできる。同社関係者は「機器の購入など何十億円も投じて東大の看板を手に入れた」と明かす。病院側は「会員を一般患者より優遇することはない」というが、施設のパンフレットは「異常が見つかれば東大病院へ迅速に紹介する」と宣伝する。
夫婦は保険料が年々上がる中、いざ病気になると3割の自己負担が重く感じる。それなら自費で健康管理をする方がいいと考えている。「公的保険は信用できない。健康は自己責任で守ります」
12月初め、寒波が襲う名古屋市。路肩に停めた車の中で、50代の女性は「子供にうそをつかせるのが一番しのびない」とため息をついた。
国保料の収納率を上げるため、集金に回る国保推進員が市内に140人いる。女性もその1人だ。800近い世帯を担当し、少しずつでも納めるよう説得する。訪問をためらう先は1軒の母子家庭。生活苦で春から滞納している。通うたびに小学生らしき子供がドア越しに「お母さんは留守」「風邪」と繰り返す。
同市の場合、国保加入43万世帯の約6分の1が滞納している。それでも昨年度、保険証を取り上げた世帯はわずか15。収納率は90%台と政令指定市の中でも上位を維持している。保険年金課は「資格証明書の交付は、行政が縁切り宣言するようなもの。市民との接触が途絶え、収納率は上がらない」と言い切る。
国保推進員は夜でも休日でも、接触できるまで訪ね続ける。冷え込みが強まる午後8時、女性は仕事を終えた。「国保は誰もがちゃんとした医療を受けるための最低限の制度。それを守りたいだけです」=つづく
◆「無保険者」30万世帯以上◆
国民健康保険料の長期滞納を理由に、医療費の全額自己負担を求められる資格証明書を市町村から交付され、保険証を使えない「無保険者」が04年度、全国で30万世帯以上に達したことが、毎日新聞の全国調査で分かった。資格証明書は滞納対策とされ、交付数は00年度の3倍に増えたが、滞納世帯数は逆に上昇。どの自治体も同じように国保財政が悪化する中、交付数に大きな格差も出ている。国民皆保険制度の根幹が揺らいでいる。
調査は47都道府県と14政令市を対象に実施。保険料滞納世帯数や、資格証明書交付世帯数などを尋ねた。
04年度は全国で計30万6020世帯に資格証明書が交付され、00年度の9万6849世帯から3倍以上に増えた。05年度も数字を回答した33都道府県で比較すると、04年度より5%増えている。
自治体間の格差も大きい。政令市で最も交付数が多い横浜市は04年度、70万世帯中3万1592世帯に交付しており、「国保料の減額申請などの相談に来ない限り、生活困窮などの特別な事情はないとみなす」と説明する。一方、名古屋市は43万世帯中15世帯にしか交付していない。両市とも医療給付費の11%程度を一般会計からの繰り入れでまかなっているが、対応は分かれている。
国は00年度から、自治体に対して資格証明書の交付を義務づけた。しかし、全国の加入世帯に占める滞納世帯の割合は、00年度の17.5%から04年度には18.8%と増加。滞納対策としての効果を尋ねたところ、36都府県と13政令市が「ある」と答えたが、10道県1政令市が「効果が分からない」と疑問を示した。「収納率(徴収できた保険料の割合)が低下した自治体もある」(香川県)、「納付意欲の減退、態度の硬化を招く」(鳥取県)などの理由だった。
厚生労働省国民健康保険課は「資格証明書の交付は滞納を抑制するという一定の効果は得られている。(交付基準の自治体間格差は)自治体が個々の事情に応じて対応しているだけで問題はない」と話している。
【ことば】資格証明書
国民健康保険被保険者資格証明書の略。原則として、納付能力があるのに国保料を1年以上滞納した被保険者に、保険証の返還又は期限切れと同時に区市町村が交付する。被保険者としての「資格」はあるが、国保の「受益権」は停止し治療費は全額自己負担になる。国保料の滞納対策の一つとして00年度から国民健康保険法で交付が義務づけられた。
◆資格証明書交付世帯数(04年度)◆
北海道17628
青 森 3491
岩 手 1520
宮 城 1879
秋 田 1766
山 形 900
福 島 4349
茨 城 6532
栃 木13226
群 馬12568
埼 玉 7951
千 葉24405
東 京12947
神奈川32477
新 潟 3053
富 山 1661
石 川 681
福 井 2572
山 梨 660
長 野 492
岐 阜 6376
静 岡 9698
愛 知 2236
三 重10330
滋 賀 1974
京 都 4396
大 阪21089
兵 庫 8893
奈 良 737
和歌山 4945
鳥 取 1913
島 根 1198
岡 山 1232
広 島13419
山 口 4078
徳 島 1320
香 川 2138
愛 媛 3222
高 知 2919
福 岡33724
佐 賀 1357
長 崎 3605
熊 本 1919
大 分 4449
宮 崎 3321
鹿児島 4651
沖 縄 123
計 306020
(毎日新聞) - 1月3日20時13分更新
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